読書には「自分」を知るという効用があります。例えば、過去に読んできた本には、あなたが目指してきたものが隠されています。何に興味を持っているのか、面白いと思うものは何なのか、好きなのはどんな世界観なのか、さまざまな事柄を浮き彫りにしてくれます。※本連載は精神科医である和田秀樹氏の著書『孤独と上手につきあう9つの習慣』(大和書房)から一部を抜粋し、再編集したものです。を入力してください。
読書には「自分」を知るという効用がある
■「自分」のことほどわからないのも自分
不思議なことに、自分のことが一番よくわかるのも自分ですが、自分のことが一番わからないのも自分であるといえます。
知識は知れば知るほど、どんどんわからないことが増えていく、「知識は“島”みたいなものである」という話と似ていますね。自分のことを知れば知るほど、自分のことがよくわからなくなる。(第4回「みんなバカばっかりだ…」と思う人が「わかっていないこと」参照)
「自分」の不思議な部分です。
ですから、「自分らしさを見つけよう」とか「自分の得意ジャンルを伸ばそう」などと言われても、何をどうしていいのか見当もつかないという人は、きっと多いはず。
じつは、そんなときにヒントをくれるのも読書なのです。
読書には「自分」を知るという効用もあるからです。
あなたの書棚に並んでいる本を眺めてみましょう。どんなタイトルの本が並んでいますか? どんな傾向の本が多いですか?
過去に読んできた本には、あなたが目指してきたものが隠されています。
あなたが何に興味を持っているのか、あなたが面白いと思うものは何なのか、あなたが好きなのはどんな世界観なのか、さまざまな事柄を浮き彫りにしてくれます。
「手当たり次第に読んできたようでも、好みの基準があって、それがいまの自分を作っているんだなと気がつく」
これは、ある大学教授の言葉です。過去に読んできた本を再び手に取ってみると、自分の目指していたものがはっきりと見えてきて、次に自分がどうするべきか、テーマが浮かんでくるのだそうです。私もそのとおりだと思います。
自分の輪郭があやふやになっているときには、書棚を眺めて、過去の読書を思い出してみましょう。過去に読んだ本が「自分」のことを教えてくれます。そして、あなたの次なるテーマも、おぼろげながらであっても浮かんでくることと思います。
「積読(つんどく)」という言葉がありますが、たとえ買っただけで読んでいなくても、あなたの興味の一端を垣間見ることはできますよ。
「なぜ自分がその本を買ったのか」ということに思いを馳せながら、今度こそ最後まで読み通してみるのも一興でしょう。
子ども時代に読んだ本は鮮烈な印象を残す
■お手本にすべき人は本のなかにいる
「ロールモデル」という言葉があります。「お手本になる人」という意味ですが、このロールモデルも本のなかに見出すことができます。
サラリーマンが池井戸潤さんの企業小説や藤沢周平さんの時代小説などを読んで、登場人物に自分を重ね合わせることはよくあることです。
フィクションだとわかっていても、登場人物の失敗や挫折が他人事とは思えず、彼らがたくましくその境遇を乗り越えていくのを固唾をのんで見守ってしまう。「よし、オレも頑張ろう」と思わせてもらえます。
現実に生きる人間は複雑で、それこそが人の魅力でもあるのですが、お手本にするには複雑すぎるきらいもあります。
しかし、小説に登場する人物のどういう部分が好きかというのは、文字で書かれているぶん、自分でも把握がしやすいのです。
どんなふうに人生を歩んでいきたいのか。
困難にどう立ち向かえばいいのか。
自分はどんな人間になりたいのか。
それらの難しい問いに、比較的、明確な答えをくれるのが、小説のなかの登場人物だと言えるでしょう。